平成30年度 施設見学会
1.施設見学会について
当研究会では、毎年、LL紙パック(アルミ付き紙パック)をはじめとしたリサイクル関連施設への見学会を実施しています。2018年度は10月30日(火)に実施し、会員企業をはじめとする28名が参加し、西日本衛材、コープこうべ(鳴尾浜配送センター内の鳴尾浜リサイクルセンター)を見学しました。
2.見学先
2.1 西日本衛材株式会社[兵庫県たつの市]
西日本衛材は1963年創業の再生家庭紙メーカーで、主にトイレットペーパー、タオルペーパーを製造しています。環境問題に積極的に取り組んでおり、兵庫県「環境にやさしい商品」指定、同「環境にやさしい事業者賞」受賞のほか、ISO14001・ISO9001の認証取得をしています。また、オフィスなどから出る機密書類を取り扱うことから「プライバシーマーク」を認証取得しています。
西日本衛材で製造されるトイレットペーパーの原料の内訳は、現在、紙パック類10%、産業損紙60%、オフィスペーパー・機密書類30%です。以前は、印刷工場などから出る産業古紙を主な原料としていましたが、1989年から牛乳パック(アルミなし紙パック)の処理を始めました。これは、市民運動として始まった牛乳パックの回収について、西日本衛材もその一員であるコアレックスグループがリサイクルすることになったことによるものです。また、1992年からはオフィスペーパーの処理を開始しました。現在では、アルミ付き紙パックもアルミなしのものと一緒にリサイクルをしています。紙パックやオフィスペーパーは難再生古紙と言われ、異物を除去できる設備が整った工場でなければリサイクルすることができません。西日本衛材では、難再生古紙も処理できる設備を導入したことでリサイクルが可能になりました。
紙パックなどの原料は以下の流れでリサイクルされます。まず、破砕機で細かくすることで水に溶けやすい状態にした後、熟成タワーで対流させ繊維が膨潤してインクやポリエチレン等を剥がしやすい状態にします。次の工程である高濃度クリーナーでは遠心分離によって機密書類などに付いているクリップなどを取り除きます。次のフローテーターでは繊維より軽いインクを泡と一緒に浮かせて取り除きます。それに続くSSセパレーターでは、細かい穴の空いたプレートによって、粒子の細かい紙繊維と、粒子の大きなポリチレン等を選別し不純物を除去します。アルミ付き紙パックのアルミもこの部分で一緒に除去されます。アルミ付きだからといって、特別な処理が必要なわけではありません。この工程の後、インクやコーティング剤などの紙以外の不純物を水洗いで流します。このように、比重や粒子の大きさなどの「性質の差」を利用して、紙繊維から不純物を取り除いています。その後は、抄紙機でトイレットペーパー原紙のジャンボロールを製造し、リワインダーで規定の長さに巻き替え、ログカッターで規定の幅にカットすればトイレットペーパーが完成します。
原料のうちトイレットペーパーになるのは約70%。約30%は不純物です。そのうち大半を占めるのはペーパースラッジで、これらは乾燥させた後に工場で使用する熱源のための燃料として使用され、その灰はセメントの原料、土壌改良剤、製鉄所での保温材などにリサイクルされています。紙パックから剥離されたポリエチレンやアルミは外部に委託しRPF(固形燃料)にしてリサイクルされています。また、製造工程では大量の水を使用しますが、工場内で汚れを取り除いた水を繰り返し利用するなどして使用量を最小限にする工夫をしており、また、工場外への排水は瀬戸内の厳しい排水基準をクリアするように浄化した後に放流しています。このように、紙パックや産業損紙等からトイレットペーパーを製造するだけではなく、残りの部分もしっかりと環境に配慮して処理しています。
2.2 生活協同組合コープこうべ(鳴尾浜リサイクルセンター)[兵庫県西宮市]
生活協同組合コープこうべは、創設者賀川豊彦が提唱した「愛と協同」「一人は万人のために 万人は一人のために」という精神のもとに活動しています。1921年に神戸購買組合・灘購買組合として誕生し、1991年、創立70周年を機に「生活協同組合コープこうべ」に名称を変更しました。事業エリアは兵庫県全域、京都府京丹後市、大阪府北部で、161店舗(コープミニを含む)及び23事業所で、店舗事業の他、協同購入、個人宅配、共済事業などを行っています。2018年3月31日現在の組合員数は169万人、供給高は2,424.6億円となっています。コープこうべでは、2013年9月以降、太陽光発電を推進してきており2018年3月末現在、今回見学した鳴尾浜配送センターの屋上に設置された太陽光パネルも含む20か所の太陽光発電所が稼働しています。こうした活動を発展させ、2017年4月から組合員向け電気小売事業「コープでんき」をスタートさせています。
コープこうべにおけるリサイクル活動は、現在、店舗では8品目(紙パック、飲料缶(アルミ、スチール)、ペットボトル、ペットボトルキャップ、発泡トレイ、透明トレイ・卵パック)を、宅配では4品目(紙パック、卵パック、商品カタログ「めーむ」、商品配達用ポリ袋)を回収しリサイクルしています。
紙パックの回収は、「ものの命を大切に」のキャッチフレーズのもと、ごみの削減と資源の有効活用を目的に1990年の牛乳パックのリサイクル回収からスタート。組合員からの要望もあり、2013年からアルミ付き紙パックの回収を開始しました。それまでは回収の対象外だったアルミ付き紙パックを回収するにあたり、広く組合員のみなさまにお知らせする目的で、機関誌や広報物を活用しました。宅配では商品カタログのなかに折り込みチラシを入れ、さらに、店舗では店頭の回収ボックスに告知用POPを設置するなどして周知徹底を図りました。2017年度におけるアルミ付きを含む紙パック回収量は店舗・宅配を合わせて307,783kgでした。
店舗から回収した紙パックは、商品の戻り便を活用し、鳴尾浜配送センターに集約され、同センター内の鳴尾浜リサイクルセンターで家庭ごみなどの異物を手作業で取り除き、アルミ付き紙パックはアルミなし紙パックと一緒に圧縮機でプレスし、1個あたり約800kg(1ℓ牛乳パック27,000枚)の立方体の塊に加工します。圧縮加工した紙パックは静岡県内の再生家庭紙メーカーに運搬してトイレットペーパーにリサイクルした後、コープこうべの店舗や宅配の商品として販売しています。異物除去から圧縮加工までの一連の作業は、兵庫県、阪神7市1町(尼崎・西宮・芦屋・伊丹・宝塚・川西・三田の各市と猪名川町)、コープこうべの第3セクター方式で設立した阪神友愛食品(株)の障がい者を含むスタッフにより行われています。
回収・リサイクルできる紙パックの種類をお聞きしたところ、最近は注ぎ口のついた紙パックが増えてきており、リサイクルに際しては注ぎ口部分を製紙工場で異物として除去しなければならないため、あらかじめ注ぎ口部分を切り取ってからリサイクルに出すよう、組合員のみなさまにお願いしているとのことでした。また、店頭回収の500ml未満の紙パックは、洗浄が不十分な状態で排出されたり、紙パックの中にストローが入ったままで排出されたりする可能性があることから回収していないとのことでした。500ml未満の紙パックの回収・リサイクルについては組合員からの要望も強いので今後検討していくとのことです。
3.見学会を終えて
西日本衛材ではアルミ付きを含む紙パックやオフィスペーパー・機密書類などの難再生古紙を原料としてトイレットペーパーなどにリサイクルしています。また、不純物として取り除かれるポリエチレンやアルミ、ペーパースラッジなども有効利用しています。
西日本衛材では、製造する製品の付加価値を高めることにも力を入れています。例えば、産学連携プロジェクトで、近畿大学や多摩美術大学の学生と協働し、「女性が持ち歩きたくなる」を商品コンセプトとしてパッケージや香りにこだわった製品やイベントのオリジナルロールが開発されました。高い印刷技術を生かし、アニメーションやお菓子などのキャラクターをプリントした商品もあります。これらのほか、売上の一部を基金に寄付するなど社会貢献の取り組みも行っています。こうした取り組みは、資源の有効活用のために紙パックをリサイクルすることにとどまらず、色やデザイン、香りなどにより「ぜひ使いたい商品」、「買って社会貢献」というかたちで消費者にとって付加価値のあるリサイクルになっています。また、商品出荷時の梱包に段ボールではなくクラフト紙を使用していることは消費者には直接見えない部分での環境負荷削減の取り組みと言えるでしょう。
リサイクル社会を形成する上で、リサイクルされた商品の付加価値を上げるということは重要です。リサイクルした商品の魅力を高め、消費者に受け入れられるものになってはじめてリサイクルの輪ができあがります。リサイクル品を魅力ある商品に仕上げていく姿勢もリサイクルを進める上では重要だと感じたところです。こうした商品、活動が広がることによって、アルミ付きを含む紙パックのリサイクルがより活発になることが期待されます。
コープこうべでは、店舗での紙パックやペットボトル、アルミ缶、スチール缶のみならず、宅配での商品配達用ポリ袋、店頭回収時に使用したポリ袋に至るまでリサイクルの対象となっています。また、ホームページやリーフレットを用いて、それぞれの回収品目について、リサイクルへの出し方を詳しく説明しています。ウェブサイトに掲載されている動画では、店頭回収した紙パックがトイレットペーパーに、卵パックが卵パックにリサイクルされることなども紹介されていて、積極的にリサイクルに取り組まれている姿勢を強く感じました。また、リサイクルの現場に障がい者の職場を確保していることも注目するべき取り組みです。
アルミ付き紙パックのリサイクルについては、現在、回収された紙パックに含まれるアルミ付き紙パックの割合が1割に満たないので再生紙メーカーに処理を依頼することができていますが、アルミ付き紙パックの比率が増えてきた場合には不純物の処理などが課題となる可能性がありそうです。ここコープこうべでは注ぎ口付の紙パックは処理工場側からの要請で注ぎ口部分を切り取って出すように掲示されています。コープこうべの組合員の皆さまのようにリサイクルへの理解の高い方には、その作業を受け入れていただけると思いますが、理解が不十分な方には作業負担が大きいこともありごみにしてしまう可能性もあると思われます。将来的に注ぎ口付きの紙パックが増えてきた場合、再生紙メーカーが欲しい資源とその価値に対して、どこまで消費者に作業を負担していただくのかが課題ではないかと認識したところです。
LL紙パックがリサイクル可能であることをより多くの方々に知っていただくとともに、リサイクルへの取り組みが今後ますます活発になっていくことを願って、当研究会では引き続き情報発信に努めて参ります。